事例1: 著名ミュージシャンのビデオテープによる映像資産をデータ化

概要

著名ミュージシャンの長年にわたるレコーディング記録映像、ミュージックビデオ、TV出演記録映像などが納められたビデオテープ(総本数 278本)を、再編集可能な状態でデジタイズ。バックアップとしてLTO-7 カートリッジも作成しました。

作業内容

依頼概要保管倉庫からのテープ搬出・素材情報の管理・ビデオデジタイズ・マスターテープの廃棄処分
素材種類1インチVTR/Umatic/D2VTR/ベータカム/デジタルベータカム/VHS・S-VHS/DV/DVCPRO50/BETAMAX
納品ファイルApple ProRes422 HQ 2ch または マルチオーディオ
納品メディアポータブルHDD 4台 LTO-7 カートリッジ 2本
作業期間保管倉庫からのテープ搬出・素材情報の管理・ビデオデジタイズ・マスターテープの廃棄処分
管理形式アークベルご提案の簡易形式(媒体写真+Excel シート)
作業後の素材専門業者による廃棄処分

オリジナルマスターテープと アーカイブ済みビデオデータの物理サイズ比較

依頼概要 BEFORE
16mmフィルム 1本
Umatic 5本
ベータカム 4本
VHS 6本
ポータブルHDD 1台
LOT-7 カートリッジ 2本

ダンボール8箱ぶんの映像素材が、両手に収まる分量のメディアへ移行できました(バックアップ用LTO込み)。


エピソード集

【ビデオテープ保管倉庫を解約したい】

今回、お客様のお悩みは以下の3点でした。

・借りているマスターテープ保管倉庫の賃料が高い
・古い1インチテープなども残っていて、中身の劣化が心配
・当初検討していたアーカイブ業者の見積料金が合わなかった



「倉庫を解約するので、ビデオテープを見にきてほしい」

温度・湿度の管理が行き届いた庫内には、映像と音声のテープ類が大量に保管されていました。
映像の記録媒体としては、DV・VHS・ベータカム(クロムテープ)・デジタルベータカムのほか、大量の1インチVTR、D2-VTRなどがあり、
最終的にはダンボール8箱もの映像媒体を搬出しました。

【お客様のご要望と弊社からのご提案】

引き上げた素材を確認し、お客様のご要望をお聞きします。今回は

・ふたたび保管用に倉庫を借りる考えはない(マスターテープを廃棄する)
・再使用時は編集することになるので、ビデオ編集に向いたフォーマット
・なるべく全てを記録して残してほしい

といった要望をいただきました。これらを踏まえ、

・デジタイズフォーマットには、編集用コーデックとして広く普及しているApple ProRes422 HQを使用
・テープタイトルをエクセル表で整理し、その他情報はテープ毎に記法が異なるので写真で現状保存~関連付け
・お客様が最終確認するための期間をあけて、デジタイズ済みテープはすべて専門業者により廃棄処理する

という方法をご提案しました。

編集用のコーデックを採用したので、古いメディアに対して十分なビットレートがあり、音声トラックが3つ以上の素材もそのまま保存できます。

【作業管理方法の決定】

まずは素材の写真撮影から行いました。

テープにはそれぞれ多様なフォーマットで映像が記録されており、またケースにもそれぞれ当時の書式ルールで内容メモが残されていました。メモは判読できないものもありましたが、今回は廃棄処分が決定しており、オリジナルの記述から作業過程で情報が欠けてしまうと後から再確認ができないことも考慮した結果、テープ毎に管理用コードを割り振り、テープに付随する内容物の状態をそのまま写真撮影。デジタイズしたデータと写真データをエクセルシート上で紐付ける方法をとりました。

【海外方式のビデオテープ】

まずは素材の写真撮影から行いました。

海外で実績があるアーティストの場合、日本とは異なる記録方式で撮影された映像素材も少なくありません。当時のビデオテープは、記録・再生ともに、それぞれ記録方式に合わせた専用デッキが必要になります。
幸いにして、ベータカム・デジタルベータカムの素材については、後継フォーマットであるHDCAMのVTRで互換再生ができるため、全てのテープから素材を取り出すことができました。

【オーディオテープとしてのVHS】

まずは素材の写真撮影から行いました。

周期的な白黒ブロックパターンがひたすら記録されているテープがありました。このS-VHSテープは、市販のビデオテープをマルチトラックのオーディオ記録用途へ転用する規格「Alesis ADAT」の前期オリジナルフォーマットでした。

【フォーマットが特定不能な形式】

1インチテープの中には、某放送局で使われていたテープが何本か含まれていました。何度も上書きで使われた形跡があり、ミュージシャンとは無関係のニュース映像なども記録されていました。普通のPCMプロセッサーではデコードできない形式の音声トラックなども見つかり、独自形式を疑う素材にも幾つか遭遇しました。

【ベータカムとベータマックス】

PAL方式でもNTSC方式でも正しい再生速度にならないベータカムテープがありました。検証の末、可能性としてテープサイズが同じでアナログ方式記録の民生規格、ベータマックスフォーマットで流用されている事を疑いました。さっそく確認したところ、ベータマックスかつベータ3と呼ばれる3倍録画モードの記録テープであることが判明しました。PAL方式のベータマックスでなくて良かったです。(国内での生存固体は大変希少です)

【想定外の出来事(QuickTime問題)】

既報のとおり、Apple QuickTimeのWindows版は、脆弱性を残したまま突如サポートが終了してしまいました。もちろんMac上では今後もサポートされるようですが、このニュースは映像業界に衝撃をもって受け止められました。

現在では、代表的なプロ用映像編集ソフトがそれぞれ独自にProRes形式のファイルを扱えるようアップデートされたため、これまで同様にWindows環境でも使用できます。また、この出来事のおかげでApple(QuickTime)に依存することなく、ProResコーデックは存在することができるようになりました。それにしても、今回の事態が全く予測できなかったのは間違いありません。

今回デジタイズを行ったビデオテープのほぼ全ては、当時前線で使用されており、かつ現在では全く使用されなくなったものばかりです。現在以降も、システムやフォーマットの盛衰は避けられない問題と考えるべきでしょう。

【データ変換後の確認期間と廃棄処理】

マスターテープの別な倉庫への移行はしない方針で決定していました。


業務委託契約上は納品後3ヶ月間、お客様による検品作業をしていただき、その後当社手配による廃棄処理といたしました。検品期間中は、当社が責任をもってお預かりいたしました。